3年A組。教室に入ったのは本鈴の2・3分前だった。
「おはよ、跡部。」
「あぁ。」
「今日、どないしたん?」
「あん?何がだ?」
「いっつも馬鹿みたいに早う来てるくせに、今日遅刻ギリギリやん。」
「っるせぇな。たまにはいいだろ。」
「せやな。けど俺遅刻して欲しかったなぁ。」
「忍足・・・・・」
俺が忍足を思いっきり睨む。
「冗談やて。あ、先生来てもうた。」
そういうと、忍足は自分の席に戻っていった。
C r a n e - 折 り 鶴 -
ガチャ
放課後。
再び旧校舎に行ってみると、
女はフェンスの向こうではなく、
無造作に置かれた机と椅子の所に座っていた。
俺が近づくと女は見向きもせずに言った。
「・・・・・・・・・なに。また来たの?」
「・・・なにやってんだ?」
俺がそう言うと、女はため息をついていった。
「生徒会長って、それしか言わないね。」
「あん?俺様に向かっていい口叩いてくれるじゃねぇの。」
「ってか、見れば分かるでしょ?鶴折ってるの。万羽鶴。」
「万羽?千羽じゃねぇのかよ」
女は俺の台詞などお構いなしに言った。
「アンタが今日来たから、また1から折り直し。」
「俺のせい?」
「そ。1万羽折るのにどれだけ時間かかると思ってるの?」
「知るか。」
「あたしも別に知って欲しくない。」
相変わらず生意気な口ぶり。
俺様に生意気な口きくのは、
テニス部レギュラーを除けばコイツだけだろう。
「あ。」
女が突然声を出して立ち上がり、フェンスに向かった。
俺もついて行く。
「はぁ。やーっといなくなってくれた。」
「何が?」
「あ、いたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あはは。冗談。」
何となくさっきよりも機嫌がいい気がした。
「あのね、雪かき用のクレーンがやっといなくなってくれたの。」
「あん?なんでそんなのが気になるんだよ?」
「だって、アレがいなくなればcraneは鶴だけだもん。」
「プッ。ハハハハハハハ。変な奴だな・・・・お前。気に入った。」
「・・・・・・・・笑いすぎ。しかもアンタに気に入られても嬉しくないんだけど。」
そう言うと、また机の所に戻り鶴を折り始める。
暗いんだか明るいんだか、大人なんだか子供なんだか、
同輩なのか後輩なのか、いったい何者なのか。
分からないのも、面白い。
「お前、名前は?」
「・・・・・人に名前聞くときは、自分が先に名乗るんじゃないの?」
「どうでもいいだろ」
「・・・・いいわけないでしょ!」
いつもの挑戦的な目で、器用な手先で、猛スピードで鶴を折る。
折りながらでも俺の言葉には応答する。
今日まででアイツについて分かったこと。
「3-1跡部景吾。生徒会長兼テニス部部長だ。」
「・・・・・・え・・・・・テニス部・・・・・部長・・・?」
突然女は鶴を折る手を止め、一瞬顔を上げそう言う。
明らかにさっきと違う表情で。
女は机の上に散らかっていた鶴を一気に紙袋へ入れ、
ひょいを鞄を拾い上げて立ち上がり、非常階段の方へ動き出した。
「おっおい!何処行くんだよ」
反射的に女の腕をつかむ。
ブレザーの上からつかんでも、分かる。ふるえた腕。
ふわっと香るシトラスの香り。
「離して。帰るから。」
驚いたと言うより、戸惑っているような声で、
そう言うと腕を振り払い、こっちを見てきた。
さっきの目ともまた違う、感情のない目で。
そしてこう言い放った。
「もう、此処には来ないで。」
top * next